生活者見立て通信は、主にマーケティングの戦略立案に関わる方々を対象に、世の中の流行や最新トレンドに関する複数の事例から背景にある太い潮流やインサイト、見立てについて独自の視点でまとめた定期レポートです。
■ 着目した生活者動向:“脳ぐされ”の拡大で、メンタル的な不調を抱えやすい土壌が形成
今回の生活者見立て通信は「脳ぐされ」という生活者動向に注目しました。
脳ぐされ(“Brain Rot”)とは、何時間もネットサーフィンを続け膨大な量の情報に触れることで精神的・知的に衰退した状態を指し、2024年にはイギリスのオックスフォード大学出版が公表する流行語に選ばれています。全米に展開する若年成人向けのメンタルヘルス治療センター「NEWPORT INSTITUTE」の発表においても、「何時間もネットサーフィンやスクロールをすると、膨大な量の無意味なデータ、ネガティブなニュース、そして友人や有名人の完璧に加工された写真に接し、自分の無力感に苛まれます。膨大な量のコンテンツを吸収し、対処しようとすると、精神的な疲労が生じます。そして、特に若い人においては、モチベーション、集中力、生産性、そして活力の低下につながる可能性があります。」とあるように、若年層への脳ぐされの影響について指摘しています。インターネットやSNSの進化で情報過多の社会となっており、生活者の脳は常に過稼働状態にあり、メンタル的な不調を抱えやすい土壌が形成されています。*¹
QOで実施した検証調査*²でも、「見聞きする情報量がここ数年でとても増えたと思う」への共感度は72.6%、「消化すべき情報やコンテンツの量が多く、メンタル的な疲れを感じることがある」への共感度は57.3%と、動向を裏付けられる結果となりました。

■ QOプランナーの見立て:“脳ぐされ”時代の脳に偏った過剰な情報刺激を、身体に逃がす“アナログ手応え体験”という処方箋
QOプランナーは、これらの生活者動向を踏まえ、裏側にあるインサイトを読み取り、下記のように見立てています。

これは、効率を優先する暮らしの中で膨大な情報にさらされ、“脳ぐされ”状態に陥る現代人にとって、あえて時間をかけたアナログ体験への没頭が、脳の過剰刺激を和らげる手がかりとして生活者から求められているという見立てです。
昨今の「編み物ブーム*³」においても、編み物に没頭することで、「デジタルデトックスにもなる」に加え、「仕上がった時の満足感がある」などの意見もあがっており、自己肯定感の向上や精神的な安定にも繋がっているようです。*⁴
この見立てについて、検証調査では、63.9%の共感度を得ることができました。また、“脳ぐされ”の体感や、それをゆるめる夢中になるものを探したいという声も見られました。

■ QOプランナーのコメント
今回担当した岩城氏、土師氏、黒川氏は、今回の生活者動向や裏側のインサイト、見立てについて以下のようにコメントしました。
「効率と生産性を最優先する社会において、私たちの脳は常にフル稼働し「早く・多く・ムダなく」こなすことで、膨大な情報やタスクに追われる「脳の過稼働」状態に陥っています。絶え間ない情報の流入によって集中力や創造力が奪われる「脳ぐされ」も指摘されています。
そんな時代に、「編み物ブーム」や「お家抹茶習慣*⁵」など、あえて時間をかける「身体性のあるアナログ体験」への没頭が注目されているのは、非常に興味深い現象です。これは単に「楽しいから」「癒されたいから」「デジタルデトックスしたいから」というだけでなく、「アナログ手応え体験」が、過剰な情報刺激によって疲弊した脳を優しくほどく「処方箋」のような役割を果たしているからではないでしょうか。無意識のうちに生活者が、脳と身体の情報刺激バランスを整えたいと願っている表れだと考えられます。」
*1 出典:リンクタイズ株式会社・Forbes JAPAN、2024年『オックスフォードが選ぶ2024年の言葉「脳の腐敗(ブレインロット)」』
出典:NEWPORT INSTITUTE,2024,“Brain Rot: The Impact on Young Adult Mental Health”
*2 検証調査概要
回答者数 :1,236人
割付方法 :性年代別に均等回収
調査方法 :インターネットリサーチ
調査期間 :2025年7月16日(水)~17日(木)
調査企画 :QO株式会社
調査委託先:株式会社マクロミル
*4 出典:株式会社東洋経済新報社、東洋経済ONLINE、2025年「令和での「編み物ブーム」なぜ人気が続くのか 《ルセラフィムのSAKURAが火付け役》 平成の編み物ブームとの違いは?」
*5 お家抹茶習慣:茶筅で泡立てたりする過程が「自分を整えるルーティン」として注目。(出典:株式会社集英社・Marisol、2021年「【贅沢ひとり時間】自宅で抹茶を楽しむ」)